☆.。.:*・ 星天電球 .:*・°☆

この頃はずっと雨が降ってた
舗装されていない道を通る僕は
お気に入りのブルーの長い靴をはけるので
ちょっと嬉しい

空はどんよりとして暗い
雨の匂いはどこか懐かしく
いつも見ている木々の葉が心地よい音をたてる
僕の傘も心地よい音をたてる
そしてクルクルと綺麗な雫を落とす

いつもと違う道
いつもと違う音
いつもと違う空気

いつもどおりの僕

友達に返す約束の本が濡れてないか
鞄の中を確認しつつ
僕はわざと水たまりの中を通る
一瞬濁っては綺麗な雨がまた流れる

ずっと下を向いて歩いてたら
首が痛くなってしまったので
しかたなく顔をあげると
目の前の小さな橋の下で
誰かが座っているのが見えた
手には何かを持っている



僕は少し立ち止まって
のぞいてみた

手の中にはほのかに光る
青い電球
それを眺めているのはまるで
本に出てくるような髭もじゃの老人

僕が見ているのに気が付くと
老人は笑って手招きをした
僕は一瞬迷ったけど、雨の日は
いつもそうしているように
いつもよりずっと早く出て来たから
少しぐらいいいかなって思って
橋の下へ降りてみた

「今日は雨だね」
そう老人が言う
僕が黙っていると
「こんな雨の日は、青空を見たくなってしまう
少年もみてみるかい?」
僕が警戒しながらも少しずつ寄っていくと
老人は見やすいように手の中をこっちに見せて来た
手の中には青い電球と、白い…
「雲?」
「そうだよ、これには40年前の私の故郷の
空が入ってるんだ」
じっとその電球を見ているとなんだか
それは確かに空が閉じ込められているようだった
ふいに老人が僕に向かって言ったんだ
「君はいい匂いがするね」

僕は学校が終わった後
いつもの雑貨店へ急いだ

今日の朝の話をすると店主は
「ああ、うちの店にもたしかあったはずですよ」
店の奥から古ぼけた小さな箱を持って来た
「種類は違うんですが、たぶんこれじゃないですか?」
箱から出て来たのは青い電球
ポツポツと白い点が付いている
「これは星のバージョンですよ、老人が持っていたのは多分"青天電球"
これは別の種類の"星天電球"です」
夜の星を閉じ込めるんですよと店主は笑う
僕は店主が入れてくれたミントティーを飲みながら使い方を教えてもらう。
閉じ込めたい星空の夜に
白いシーツと、銀のボウルを持って外にいく
何もない広い場所に白いシーツをしいて
真ん中にボウルを置く
そして星空を映したボウルに電球を入れる
そして夜が明ける前にシーツにくるんで持って帰るんだ
一日寝かすと星天電球の出来上がり!
「だけど、その電球は一度電気を流すとスパークして破裂するするので
生産が中止になったんですよ」
実際はその記憶した空が部屋中に映し出される、という商品だったんですけどね
なんて店主は困ったように笑う
これは使えないの?

がっかりする僕に
「電気を流さなければ、ずっとそこにありつづけますよ
そこにそうして存在する、それを考えるだけでもちょっと素敵ですよね」
星天電球を箱に戻そうとした時に
グゥっと
僕のお腹がなってしまった
僕は恥ずかしくなってうつむくと
「そういえば今日は美味しいパイを頂いたんですよ、一緒に食べましょうか」
なんて言って店主が出してくれたのはチェリーとナッツのパイ
お昼を抜いていた僕は思わずおかわりをしてしまった

本当はちゃんといつものようにサンドイッチを持っていたんだけど
あの老人にあげてしまったんだ
あの時
あの老人は僕にその思い出の青天電球とサンドイッチを
交換してくれないかと言ったけど
僕の作ったサンドイッチが、
老人の大切な思い出の空と同等なんて
思えない

たぶんあの老人はあの電球が最後の持ち物

僕は僕のサンドイッチを渡した
そして小さいけど、青空の絵が描いてある僕の傘と
僕のハンカチ
老人は僕にありがとうというと、小さな祝福の言葉をくれた

もう見る事の出来ない空を大切に持っている老人
あの電球に記憶されている思い出はどんなに楽しいものだろう
僕もそんな思い出の空が欲しい

いつか星天電球を見て
あの時は楽しかったな、なんて思える思い出を
僕は雲の上の空を見てそんな事を考える

店主から借りた傘は僕にはちょっと大きい
僕は早く大人になりたい
早く大人になって、思い出が沢山欲しいんだ…





Item:14
name:星天電球
空を記録するという電球
不良が多くて生産中止になったという話